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映画監督インタビュー

キム・キドク監督来年2月日本公開の韓国映画「悪い男」―残酷で、見る者の心を擦り切らせるようなこの作品を撮り上げた監督キム・ギドクをK-PLAZA.comが取材した。(11月27日都内某ホテルにて)

1996年の監督デビュー以来、凄惨で残忍な中に人間の本性を描き続けてきたキム・ギドク。そのあまりに過激な内容の映画とはかけ離れ、間近で見る彼はこれまで重ねたという多くの苦労が少しもその外見に影を落としてはいない。うつむき加減のもの静かな青年であった。


金 基徳(キム・ギドク)監督:1960年生まれ、鰐(1996)、野生動物保護区域(1997)、青い門(1998)、魚と寝る女(2000)、実際状況(2000)、受取人不明(2001)、悪い男(2001)、海岸線(2002)、春夏秋冬そして春(2003)
僕には何もなかった。韓国では社会の中でひとかどの人間になろうとしたらまず学歴というものが必要になってくる。僕は小学校を卒業した後、ずっと工場で働いていました。映画などの文化に触れる機会もないほどに。91年、絵画を学びにフランスに渡るまで映画を観たことはなかったんです。初めての映画は、アンソニー・ホプキンスの「羊たちの沈黙」でした。でもこの作品に影響を受けて監督になろうとしたわけではありません。ずっとシナリオを書きたいと思っていて、韓国に帰国後世に出したシナリオがきっかけとなって、監督業に足を踏み入れることになったのです。

どうしてフランスに渡ったか、それは海兵隊の任務が解かれた後「さぁ僕はこれから一体何をして行くんだ?」と自問した時に、学歴のない自分はどうしたってまたあの希望のない工場生活に戻るしかないじゃないか、という思いが込み上げてきた。もうあの生活に戻るのは嫌だった。だったらヨーロッパに行って絵を学ぼう、それも駄目だったらその時考えればいいじゃないか、と。

シナリオを書き始めた理由は、自分の人生をそこに書き映してみたかったということです。フランスに行ったことで、それまでの労働生活から抜け出せた。生活に余裕が出たんですね。映画も見るようになったし、自分のこれまでの生活や感じて来たことについて思いを馳せることができるようになった。僕のシナリオ、映画は自分自身の体験がもとになっているんです。「海岸線」や「受取人不明」は軍隊での経験が下地になっている映画です。

僕の映画の中には強姦シーンがよく出て来ます。これらは、この世の中には実際にこういうことが起こっているんだ、という事実の表現です。僕自身が強姦に対して憧れを持っているとか、又は自分を犯される立場に置いてストーリーを作るということもありません。現実に起こっている事実を見聞きする中で、犯す立場と犯される立場両方を客観的に見て作品を撮っています。

キャスティングに関しては、僕は実際のオーディションを特に重視しています。シナリオを書く時点で、登場人物のキャラクターをほぼ明確に設定しているんです。だから、その俳優が自分の思い描く人物像に当てはまるかどうかが重要なポイントとなりますね。登場人物像を形作っていく際、こういう感じの人物をどこかでみたことがあるな、それは誰でどこで見たのかと思いを巡らせることもあります。

女子大生役にソ・ウォンを起用したのは、彼女を見た時に真っさらな白いキャンバスのようだと感じたんです。彼女が連れ去られて不幸な目に合わされるとしたら、より心に迫る現実味が表現できるのではないかと考えました。チョ・ジェヒョンについては、彼は素晴らしい俳優だけど今まで僕の映画にあまりに多く出ていたので、今回は他の俳優をと考えていたんです。すでに名声のある俳優何人かと実際に交渉をしましたが、色々あって駄目だった。最後まで有力候補だったのはチェ・ミンシク(※)でした。しかし結局それも不可能となり、最終的にチョ・ジェヒョンに決まりました。

僕の作品は常に論争の的となります。特に女性からの嫌悪感は大きい。韓国内でもそうですし、海外でも今回の「悪い男」は特に議論の対象となりましたね。スイスの映画祭ではこうも言われました、「自分だったら絶対にこんな映画は選ばない」と。また海外にいる同胞からは「これが韓国映画だということを恥ずかしく思う」という言葉を掛けられた。「人権を辱める」と。しかし、僕としてはこれは大きな驚きでした。ヨーロッパのような先進国においてもこの作品の全体像を捉えてもらえないのかと。僕は映画によって現実に起こっている問題を提起することが重要だと考えています。ある一部分、特定のシーンやエピソードを拡大して表面的に人権蹂躪だと批判するよりも、映画という一つの作品として評価して欲しいという気持ちが強くあります。

「悪い男」では照明に気を遣いましたね。売春宿のネオンに実際に目の前で見るような現実味を持たせて、退廃的な雰囲気を生かすようにしました。照明に特別お金をかけたわけではないですが、フィルムは高感度のものを用いました。弱い光もうまく拾えるような。また、チョ・ジェヒョン扮するヒャンギには陰影によって凄みが出るようにわざと上から光を当て、対するソナ役ソ・ウォンは明るく映し出されるように照明を当てるなど、光によっても人物像が浮き彫りになるようにしたんです。

日本の俳優では、一度「魚と寝る女」を撮る時に「うなぎ」という映画に出ていた清水美砂を起用したいと考えていたんですが、うまく交渉に持っていけず断念したことがあります。また「純愛譜」に出ていた橘実里もとても魅力的ですね。役所広司、彼は韓国で言えばアン・ソンギのような俳優だと聞いていますが、彼もとても良い俳優だと思う。あと、知っているのは「少女」という映画を撮った奥田瑛二。彼は俳優としても有名だということですが。しかし、僕は自分の作品に有名な俳優は起用したくはないんです。無名でも魅力のある人物を使いたい。もし日本の俳優を使って映画を撮るとしたら、オーディションで自分の描く人物像に近い俳優をコツコツと探す作業から始めていくでしょう。

言葉を選ぶでもなく淡々と語るキム・ギドク監督は、世間に背を向ける異端児ではない。とてもまっとうで誠実な人間だ。だからこそ、彼には現実社会に存在する悪徳が、また不幸にまみれる人々の悲哀が凝縮して感じられるのではないかと思う。彼の作品は女性差別だと非難されることも多いが、差別を嫌うのは他ならぬ彼自身なのではないか。
2月公開の「悪い男」、鈍器でメッタ打ちされたようなダメージを受ける恐れあり。観る者にも体力と精神力が必要だ。どう解釈されるかは貴方次第。

(※チェ・ミンシク…日本では映画「シュリ」の北朝鮮スパイ役で最も知られている、重厚なる韓国映画界の名優。主な主演作に、浅田次郎の短編小説‘ラブレター’を映画化した「パイラン」、朝鮮王朝末期に実在した天才画家の半生を描いた「醉画仙(チファソン)」など。

インタビュー日時:2003年11月27日(木)
聞き手:Kスタッフ


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