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KTのタイトル画像

KTの写真1ワールドカップ共催までカウントダウンが始まった。それにあわせたかのように1本の映画が5月3日より公開された。日韓合作映画『KT』だ。

1973年年8月8日昼、現韓国大統領である金大中(キム・デジュン)氏が来日中に千代田区の皇居近くのホテルグランドパレスで拉致され、5日後の8月13日、韓国の自宅前でボロボロの姿で発見されるというショッキングな事件が起こった。これが世に言う『金大中事件』だ、30代後半から40代にとっては、きっと記憶のどこかにあるはず。
当時の朴大統領政権にとっては急進的左派勢力で元野党大統領候補の金大中氏は目障りな存在であり極秘の暗殺命令がでていた。映画冒頭の部分の遊説移動中の自動車事故もKCIAに仕組まれたものだといわれており、この事故で、金大中氏は以後、片足が不自由になる。
映画のなかでずっと、金大中大統領が足をひきずっていたのもうなずける。

拉致された金大中氏の処遇を巡り、日本政府と朴正熙配下で情報ファッショ政治を行っていた韓国政府、KCIA、朴政権に荷担する韓国財閥はもとより、アメリカまでも巻き込む国際的な事件へと発展した。日本の公安警察は事件後に動いた形になっているが、事前に情報を完全にキャッチしていたともいわれ、海上自衛隊の哨戒機が拉致船を追い韓国海域ぎりぎりのところまで向かった。金大中氏の回想録によれば、「どうもアメリカ?のヘリコプターが飛んできたので海に投棄されて殺されなかったと思う」と語っている。この事件の詳細については現在も秘密の部分が多く、大統領自身も政治的取引材料としてお茶を濁しているようだ。

KTの写真2映画『KT』は、金大中拉致事件をKCIA(国家安全企画部)内部の告発やCIA関係者からの証言に基づく事実に加えて、厳密な調査・検証をした中薗秀助氏の『拉致』が原作で、この原作をもとに坂本順次監督が28年前に闇へと葬られた真実を描きだそうと、スリリングな歴史ドラマに仕上げた。題名『KT』は、金大中の頭文字でもあり、KCIA要員が命令されたKill The Targetの意味でもある。韓国では歴代の大統領をイニシアルで呼ぶ習慣がある。金泳三大統領などは「YSはやめられない」という小話本で一斉を風靡したことも韓国では記憶に新しい。

映画『KT』は拉致から発見までの空白の五日間、金大中氏拉致暗殺作戦に関わる事となった様々な人々の心情を当時の韓国の歴史的背景にできるだけ忠実にサスペンスタッチで展開する。主人公の自衛官・富田満州男(佐藤浩市)とKCIAの要員で韓国大使館一等書記官・金東雲(キム・ガプス)は、双方とも国家規模の謀略事件の当事者として、『自分がやるべき事』を忠実にこなしていくが、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、実際には拉致に成功したにも関わらず『政治的妥協』の名の元に、事件は終結を見せる。自らが所属する『組織』の為、人倫をかえりみず、危険を冒し任務を遂行していきながら、最後には自らの『組織』によって生き、存在する場所を失っていく、なしくずしな男たちの苦悩がそこにある。

坂本監督には現役の大統領をあつかった映画でもあり、台本を読ませてほしいと金大中大統領の側近からの要望もあったそうだ。また、韓国の俳優たちの立場としては「あまりに政治色の濃い事件の映画には出たくない」と出演拒否もあり、役者の確保にも苦労したと坂本監督は語る。そういった意味で、金車雲役のキム・ガプス氏は勇気ある人だと思う。
撮影は通訳をはさみながらのため難航し、撮影後も韓国側の役者たちと役作り、演技に関してのディスカッションシステムをもうけたりする配慮をしたそうだ。

KTの写真3映画のメンタルな設定部分に関してあえて重箱のすみをつつくような指摘をさせてもらえば、「在日ウケの悪い映画」だと思う。金大中氏のボディガードをつとめることになった在日青年(筒井道隆)がよくもわるくも、映画を別な方向から見させてしまう。在日青年が金大中氏ボディガートとして雇われる話をもちかけられる食卓では、自分より年長者2名を前にしてなぜ、先に食事に箸をつける行為をしてしまっているのか。こういったマナー違反は在日らしからぬし、公安警察での取り調べのシーンで、警察官が韓国語を流暢にしゃべり、「在日のくせに韓国語もわからんのか」という捨てセリフを吐く。もちろん、青年は自分のアイデンティティーを否定されて激高する。映画のなかであえてこのような、在日の堪にさわるような、日本人からのイジメ的場面を見れば、在日たちは複雑な心境に陥らざるをえないし、これははっきりいって在日にはウケない。「在日は日本で生まれて日本で育ったのだから、ハングルがわからないのはしごく普通で、当たり前なことであって、とりたてて恥ずかしいとか、くやしいとか気に病むことではない。」からだ。韓国語ができる警察官は韓国語を単なる技能の1つとしか考えておらず、こういったセリフを平気で吐くというのは、在日に対する知識のかけらもないということの証明だ。同じように、ただ韓国語ができるだけの類の日本人も実は、実社会にも結構いるのではなかろうか?と思うとちょっと寒気がしてくる。こういったことを考えながら見る映画としては、『KT』はかなり秀逸な作品だと思う。

富田満州男、金東雲、KT作戦の当事者にはなかなか感情移入しにくい作品だが、傍観者の視点から金大中事件を見た『KT』は色々な事を考えさせてくれる。歴史の1ページである、金大中事件が単なる過去の事件として忘れ去るには、あまりに多くの意味を含んでいる事を気づくだろう。なぜ金大中が暗殺されなかったか、その駆け引きにかかわる謎がぜひ後世であきらかになってほしい。 (2002-05-17)

 






 
 

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