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その日は、日本から友達夫婦が、彼らの会社の社員とその家族と共に総勢30人ほどの社員旅行に来ていた。団体客にはお互いの連絡手段として、旅行エージェントから携帯電話を貸し出してくれるらしい。彼らも携帯電話を幾つか借りていたので、一緒に食べる事になっていた夕食の時間や場所もあとから携帯に電話する事になっていた。しかし、6時からさて〜!とウキウキと電話したものの、携帯というのは肝心な時になかなかつながらないものだ。と、そのうち、前日に「ハイアットの夕食はブッフェでみんな好きな物を好きなだけ食べられるし、テーブルも広々していておすすめだよ。」「じゃあ、明日はそこで食べようか〜。」という会話があった事を思い出した。行ってみるか・・・。その時点でもう7時を過ぎていた。それでももしや、と思ってキョロキョロしながらゆっくり車をハイアットに向って走らせる。主人は知り合いとゴルフに行っていたが、せっかく日本から私の友人が来ているのだからと、ゴルフ仲間との夕食は断って私たちと食事を共にする事になっていた。友達と連絡がとれないが、取りあえずハイアットの駐車場で会おうと携帯に電話を入れたあと、歩道に目をやりつつゆっくりホテルに向かった。そしてここからが問題なのだが、私はいつもハイアットの正面駐車場ではなく、裏口の駐車場に停めた。ここの会員になっていてサウナやプールに毎日のように行っていたので、ついクラブの会員用の駐車場に停めたのだ。私はそこでダンナが来るのを待った。いや、待とうとして車を停めた、その時。私の車の横にものすごい勢いでキキーッと音がして、一台の自転車が止まった。自転車といってもあれ、何と言ったか・・・スポーツ用のスピード出るかっこいいやつ・・。乗っていたのは、ポリス・オフィサー、警官、そう、サイパンのおまわりさんだ。ガラパン地区を中心に、最近マウンテンバイクにまたがったおまわりさんをよくみかける。ガラパン地区は、徒歩でショッピングや食事に出かける観光客が多いから、彼らの安全を守るには車より自転車が効率がいいという事だろう。制服も、いかにも警官というような空色の襟付きのシャツに黒の長ズボンといったものではなく、紺のポロシャツに半ズボンというさわやかそうなものだ。自転車の止めかたからして、かなり憤慨しているように見えなくもない。回りは日もとっぷり暮れて、ホテルの裏口の駐車場には人影もない。外灯だけが灯って、辺りは静かだ。
はて?なぜ自転車にまたがった警官が私の横に止まったのか?まるで私を追いかけてきたみたいに。私はここでやっと気がづいた。そう、彼は私を追いかけてきたのだ。汗だくになって方でハァハァと息をしてるのを見ると、だいぶ前から私を追いかけてきたらしい。友達を探すべく、歩道の通行人に気を取られてた私はバックミラーで後方を一度も確認しなかった。どのあたりから追いかけてきたんだろう。それにしてもすごい汗・・・すごい運動量だろうなぁ、マウンテンバイクといえども、自転車で車を追いかけてきたんだから・・・ご苦労様・・・と心の中でつぶやいた。・・いや、同情してる場合じゃない。なぜ私を追いかけてきたんだろう・・・。
流れ出る汗を拭き拭き、バイクから降りた警官は(名前はA。小柄で目がクリクリしててカワイイ、関係ないけど。)窓を開けろという。素直に従い、取りあえずあいさつする。彼は相変わらず汗だくだが、そんなの僕にとっては何でもない事なのさ、という風を装って、私のにこやかな挨拶もまるで聞こえなかったかのように「停まれという指示になぜ従わなかったのか?」と憮然と聞く。あ、後ろから指示を出してたのか。そういえば、途中でヒューッという、口をとがらして口の両端を手で押さえ、思いっきり息を吸い込んで出す口笛のような音を聞いたような気がする。それともそういう音がするホイッスルを持ってたのかな?少なくとも日本で交通整理におまわりさんが使うピーッという鋭い音ではなかった。何だか笑いが込み上げてきた。後ろから停まれ〜とヒューッと合図をしつつ、なおかつ、全速力で車を追いかける図、そして今目の前で肩で息をしてるおまわりさん・・・。しかし!笑ってる場合じゃない。笑いをこらえつつ、とりあえず、謝る。「夕食の約束をしてる日本からの大事なお客さんとはぐれちゃって探してたもんだから、気がつかなくてごめんなさい、決して逃げようと思った訳ではないんです。」彼は私の説明を聞く間に汗も少しひいてきて、息も整い、心なしか表情がなごんだ・・・ように見えた。そして私はさっきから気になってた事を聞く。「ところで、なぜ私を追いかけてきたんですか?」さっき表情がなごんだように見えたのは当たってたようで、さっきよりくだけた言い方で彼は続ける。「君は横断歩道を渡ろうとする人を無視して、歩行者を優先しないで走りすぎた。走っている車が歩行者へ注意を配るのは法律で定められてるのを知ってるだろう?君はその注意を怠ったんだよ。」
・・・。え?ちょっと待ってよ〜。おっしゃってるその横断歩道には「信号」というものがあるでしょ??シ・ン・ゴ・ウ!私は信号が青だから通り過ぎたけど、あなたが言ってるその「横断歩道を渡ろうとしてる人」というのは歩行者用の信号が赤だったから青に変わるのを待ってたんでしょう?とにかく、私は信号無視もしてないし、赤信号なのに渡ろうとしてた人なんか、いませんでした!それにさっきも言ったように人を探してたからスピード出してた訳じゃないし〜。そりゃ歩行者がいたら、いつも万全の注意をしてますよ〜。でも信号が青なのに停まる訳に行かないでしょう?後ろから車も続いてるんだし〜・・・。と一気にまくしたてた所で彼の反応を見ると、彼は長いまつげを伏せてジーッと聞いてる。やった!これはいける!と思ったその時、後部座席に乗ってた子供たちが私にまとわり付いてきた。子供たちを見た彼の目がキラリと光った、ように見えた。そしておもむろに後部座席の窓を開けろという。うちの車は全部の窓に黒い幕を張ってあって夜などは特に、外から車の内部は全く見えない。OK!お安いご用!とばかりに後部の窓を開けようとボタンに指をかけたその瞬間、私は心の中で叫んだ。
あぁぁぁっ〜!!大事な、そう今の私にとってとても大切な事を忘れてた事に気がついた。この何年間、それこそ車の一部のように常時固定してあったチャイルド・シートを、日本からの友達をショッピングに連れてったり、一緒に海に出かけるのに狭くて面倒だからと、昨日(そう!まさに昨日。)取り外したばかりだったのだ。子供の保護という関しては徹底しているこちらの法律では、車両に関しても同じでチャイルドシートの取り付けは法律で厳しく義務づけられている。義務を怠った場合は(今の私のように。)罰金250ドル。子供を乗っけていながら、チャイルドシートが車内にないという事実がそこにある以上、言い訳のしようもなく、明らかに私の一本負けだ。しかし!ここであっさりあきらめて、おまわりさんの言いなりになるワタシではない。一本負けは悔しすぎる。せめて判定負け、あわよくば「わずかの差で判定勝ち」ぐらいに持っていきたいところなのだ。私はこれから彼との間でなされるであろう会話を頭フル回転で予想した。そこで、一つの結論に至った・・・。
子供たちも乗ってなかった事にして、従ってチャイルド・シートも当然確認しなかった事にして、「シートベルトを締めていなかったという事にする」というスバラシイ結論だ。何もなかった事にしてくれと言ってるのではない。お互い歩み寄って、シートベルトで手を打とうという事だ。というのも、シートベルトを着用してない場合の罰金はチャイルド・シートの10分の1の25ドル。この差は大きい。こんなスバラシイ結論をほんの何秒の間に思い付いたのもワケがある。実は以前にもチャイルド・シートではなかったが、ほんのちょっとのスピード違反をシートベルト違反にしてもらったという前歴(前科?)があるのだ。ふっふっふ。果たして、「スバラシイ結論」は実を結んだのか??出来事はあっと驚く意外な展開になっていくのでした・・・。 |
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