| 以前住んでいた家の隣りに韓国人夫婦が住んでいた。ある日、アジュンマが羊の肉のスープを作ったから食べにおいでという。羊の肉・・・?何となく嫌な予感がしてとっさに理由をつけて断ろうとした私に、アジュンマは畳み込むように「羊の肉のスープなんて滅多に食べられないし、体にもいいんだから、必ず来るのよ。」と言い、さっさと行ってしまった。目上の人がせっかく誘ってくれたんだし、断るこれといった理由もない。仕事を終えた主人にその事を伝えようとすると、なぜか、既に知っていた。「今日、隣りに招待されてるだろう?羊の肉のスープなんて食べた
事ないからな、楽しみだな〜。」と嫌にウキウキしている。 |
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時間どおりにお隣りにお邪魔する。ご夫婦には子供がいないので家の中は整然としていて、薄暗い白熱灯の明かりで、部屋全体が緑っぽく見えた。正直「やっぱり来なければよかった」と思った。食卓に並んだのは、本当に言葉どおり肉のかたまりがどーんと入ったスープとキムチ。いただきます〜と、スープを一口・・・。ま、まずい。肉の臭いが・・・くさい。あわてて、食卓に置いてあった塩こしょうやコチュカルをバンバンふりかける。スープはそれでどうにかお腹におさめるとしても、肉のかたまりは食べられそうにない。私を除く三人は楽しそうに談笑しながら、おいしそうに食べているように見える。私はさて、どうしたものかと考えながら、チビチビとスープを口に運んだ。と、その時、ダンナが横から「どうしたんだよ、なんで食べないんだ?こんなおいしいのに。肉も食べろよ。」とニコニコとした顔で言い、みんなの視線が全く減っていない私のスープへと注がれる。ったく、余計な事を・・・。「う、うん。おいしいです。今食べようと思ってたとこ。」・・・。覚悟を決めて食べるしかない。まずくて食べられませんとは、口が裂けても言える状況ではなかった。勇気を出して、肉の固まりを歯で食いちぎる。柔らかいとはとても言えないその肉をかみ砕いているその時、「ガリッ」といういや〜な感触が口の中に広がり、思わず顔をしかめた。何・・・?骨?骨にしては小さすぎる。軟骨?まさか軟骨がこんなに固いワケがない。明らかに「異物」だ。口から吐き出した「それ」をとっさに素早くポケットに入れた。幸い誰も気づいていないようだ。「それ」が何なのか?あとで確認するしかない。そのあとも私はまた「異物」が入っていないか用心しつつ、せっせと肉をかみ砕き、スープを飲み、デザートのチャメをゆっくり味わう間もなく「おいしかったです〜。ごちそうさまでした。」と歯の浮くような事を言って早々と家を後にした。
30秒後にうちに着いてドアを閉めるなり、ダンナの手を引いてソファに座らせた。さっきから聞いてみたかった事をまず聞く。「ねえ、スープ、おいしかった?」「う〜ん、君は?」「羊のスープってもともとあんな味なの?」「う〜ん、僕も初めて食べたからね〜。で、君の感想は?」「おいしいおいしいって食べてたじゃん。」「で、君はおいしかった?」と相変わらず妙にニヤついている。さっぱり要領を得なくてじれたくなった私は「ねえねえ、これ何だと思う?」とポケットからブツを恐る恐る取り出し、2人してジーっと覗き込み、「スープの肉を噛んだら出てきたんだよね。」とつぶやく。10秒ぐらい沈黙した彼は、堪えきれなくなったように吹き出した。そして狂ったように笑い出し、最後にはソファの上を転げまわりながら涙を流して笑い続けた。あまりの笑いぶりに最初は一緒になって笑い出した私だが、手のひらに乗ってるブツが気になって、心底笑う事は出来なかった。「で、何なのよ。」と急かすと、彼はやっと話せる状態に戻り、涙を拭き拭き語ってくれたのだ。
今日の夕食は私以外の三人が仕組んで、「りょう子には羊の肉のスープという事にしておこう。」と口裏を合わせたらしい。で、羊スープの正体は・・・、犬肉のスープだったのです。そしてそして、例のブツは何だったのかというと(涙)・・・、そう、犬を撃った「弾丸」だったのです。今思い出してもいや〜な感覚が走るのだが、犬の肉に食い込んだ弾丸ごとスープを煮込んだのだった。そしてその「部分」が、よりにもよって私のスープに入ってたという訳だ。事の次第を聞いて愕然となった私がトイレに駆け込んだのは言うまでもない。 |
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サイパンにも犬肉を食べられる食堂が幾つかある。
専門店ではなく、普通の韓国料理屋さんで犬料理も出していて、メニューには出ていないが、口コミで「あの店では犬鍋が食べられる」とウワサが広がるようだ。サイパンには中国から来ている朝鮮族も多いのだが、彼らも犬の料理を食べる。件の韓国料理の店でも、犬鍋のタレは、韓国人用、朝鮮族用と二種類あり、朝鮮族用のは何やら中国人が好む香辛料が入ってるらしい。犬肉は滋養強壮にとても効くそうなので、年中汗をかくサイパンの住民にはとっておきの栄養食になるのかもしれない。 |
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W杯に向けて、韓国人が犬肉を食べる事への批判の声が出たという。まただ。文化も風習も違う他国の人が何を食べようと、自分たちが食べないからあなたたちも食べるなというのは、随分自分勝手な考えで、「余計なお世話」以外の何者でもないと、私は思う。で、韓国の対応はというと、他国にどう言われようと、ソウル・オリンピックの時のように犬肉を食べさせる食堂を表通りから一掃したりというような対応は一切考えていないという。そう来なくっちゃ。鶏や牛、豚を食べていいなら、犬も食べていいのだ。韓国でも食用犬として育てられているというではないか。犬肉を食べたい人はどんどん食べよう。ただ、私は食べたくない。「歯の感触」や、隣りの家の薄暗い白熱灯の明かり、加えて当時その家に住んでた頃の事を思い出すと何とな〜くどんよりと暗い気分になり、そういう諸々の事が私のトラウマになってるからだ。食べたい人はどんどん食べて、食べたくない人は食べなくていい。それでいいではないか。
それにしても、サイパンの食堂は犬肉をどうやって調達するのだろうか?うちの回りを暇そうにのっそり歩いている野良犬を見る度に、ちらっとそんな事を思うのは私だけだろうか・・・。 |