| サイパンには、人口に比べて美容院が多いと思う。日本では法律で美容院と床屋が区別されてるらしいが、こちらでは美容院も床屋も一緒だ。最近はチャイニーズの激安の床屋がひそかな人気でもあるらしい。私はちょっと勇気がなくて行った事はないが、カット4ドルの看板があっちこっちに立てかけてある。美容院、床屋といっても、日本のそれと比較してはいけない。中には日本のそれっぽいちゃんとした所もあるが、例えば4ドルのカットというのはシャンプーなんてのはもちろんない。言葉どおり「カット」。鏡の前に座って、切って、おしまい。友達は、「うなじについた髪をはたきもせず、髪を切ってバリカンを置いた。え?もうこれで終わりかいと思ったら『4ドル』と言われ、払ったら店主が中に引っ込んじゃった」らしい。床屋に入って出てくるまで、ものの10分。
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私がよく行く美容院は韓国人のご夫婦が経営しているC美容院。ご夫婦は40代半ばぐらいだろうか。今日はそのC美容院の事をお話ししようと思う。私がこの美容院を利用するのは、私が、というより子供たちのカットのために頻繁に行く。5歳と3歳の子、それも男の子の頭なんて市販のバリカンのようなもので刈ってやれば充分だと思うのだが、不器用な私はそれすらも満足に出来ない。「あら〜、誰に頭刈ってもらったの〜?変わったスタイルね〜。」と笑われたのも一度や二度ではない。それで、子供たちを一月に一回のペースで連れて行くのだが、私はここのドアを開ける時、何となくワクワクする。美容院の中はある種、外の世界とはかけ離れた退廃的な空気、とでもいうようなものが漂っているのだ。オーナーでもあるアジュンマからはいつも物憂げなオーラが漂っている。英語ができないという事もあるが、もともと口数が少ない人で「こうしてください」というと面倒そうにうなづき、滅多に話さない。
しかし、一旦髪を触りはじめると手際よい。キビキビと、せわしく指を動かす。
奥のソファにはアジュンマの親友なのか、たいてい髪の毛をカーリーヘアにして「刺青まゆげ」のアジュンマが物憂げにプカーッと煙草を吹かしている。うちの子が3歳ぐらいの時だったか、美容院に連れて行って息子のカットをお願いすると髪の毛が付くからTシャツを脱がせろと言われた。言われた通りにすると、しげしげと息子の全身をながめ、「何だか痩せてて真っ黒で、どっかの遠〜い、ろくに食べられない国から来た難民みたいだね〜。」とケラケラ笑われた。韓国人の感覚に慣れてなかった私は大いに傷ついたけれど、不思議と腹は立たなかった。
アジュンマはまた昼寝も好きだ。お客がいないとドアを開けて正面にあるソファで昼寝してる。ドアを開けると、ドアについてる鈴がチャリンチャリンと鳴って、アジュンマはこの上なく面倒くさそうに起きてくるのだ。
アジュンマはまた頑固でもある。下の子は行く度に短いスポーツ刈りにしてもらうのだが、上の子は何となく短いのが似合わない感じがして、いつも坊ちゃん刈り程度に切ってもらっている。坊ちゃん刈りだから、当然すぐ前髪が目にかかったり、耳に髪がかかったりで、上の子のペースに合わせて美容院に通っていた訳だ。それはもう暗黙の了解で、アジュンマは何も言わなくてもちゃんと心得ていてくれた。ある日、何となく面倒だったのもあるし、上の子も学校に行き出して短い髪にしたいと言い出したので、「面倒なので上の子も下の子みたいに短く刈ってください」とお願いした。すると、アジュンマは顔色一つ変えず、こう言った。「この子は短くしちゃだめ。私だって食って行かなきゃいけないんだから。」一瞬の沈黙のあと、私は全てを理解してゲラゲラ一人で笑い出してしまった。要するに、短くすると今より来る回数が減るから、今までどおり長めにしておいてちょっと伸びたらまた来なさい、という事だ。不思議とこのアジュンマに言われると腹も立たない。そうですね〜、じゃあ、今まで通りでいいや〜、と言いたくなるのだ。アジュンマ、ホントにいい味出てる。負けずにダンナさんもいい味を醸し出している。実際の技術は奥さんにあるのだから、お客は全てアジュンマがこなしてるのだが、カットが終わると絶妙のタイミングでダンナさまが散らかった髪をほうきで掃いたり、子供のカットでてこずってるとどこからか音もなく現われて子供の頭をさりげなく押さえる。一人の客が終わると、待っている客をさりげなく手招きして椅子に座らせる。
まさに「髪結いの亭主」の鏡とも言える社長さんなのだ。
そして二人はとても仲むつまじいお似合いのご夫婦だ。 |
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| こういう人々を見ると、意味もなく嬉しくてついニヤついてしまう。お互い腹を割って話す間柄じゃないけど、でも何となく憎めない人々・・・。無駄な事を言わなくても、何となく応援したくなる人々・・・。大袈裟かもしれないけれど、ストレートな人間臭さを感じるのだ。韓国人にこういう人が多いと思うのは、私だけだろうか。こういう人々が、私をサイパンに居続けたいと思わせる所以だと思う。
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